Google Driveやbox、OneDriveといったクラウドストレージサービスの普及に伴い、「クラウドストレージに保存しているデータは安全だからバックアップは必要ない」という認識を持つ方も多いでしょう。むしろバックアップデータも含めてクラウドストレージに置いているから安心、というような話も耳にします。
しかし、この考えは必ずしも正しくありません。今回は、Google DriveやBoxなどのクラウドストレージを利用する際に、クラウドストレージ以外にバックアップが必要かどうかについて解説します。
※本記事は2025年5月時点の情報です。サービス内容や仕様は変更される可能性があります。最新情報は各サービス提供元でご確認ください。
2024年5月、Google Cloudにおいて衝撃的な事故が発生しました。オーストラリアの年金基金「UniSuper」のシステムが突如として削除されました。数百の仮想マシン、データベース、アプリケーションが消失するという大規模障害です。復旧までには約2週間を要し、1350億ドル(約20兆円)の資産を管理する600,000人以上の会員に影響を与えました。
原因は、Googleのオペレータによる設定ミスでした。UniSuperのプライベートクラウドのプロビジョニング有効期間を設定する際、重要なパラメータが空欄のままとなり、デフォルト値の「1年」が設定されました。その結果、1年後に事前通知なくプライベートクラウドが自動削除される事態に発展しました。
この事例は、クラウドサービスでも人的ミスやシステムの設定によって予期せぬデータ消失が起こりうることを示しています。UniSuperは幸いにしてデータを別途バックアップしていたため復旧できましたが、バックアップがなければ取り返しのつかない損害となっていたでしょう。
この件はクラウドストレージサービスの話ではありません。ですが、同じクラウドサービスの話ですので、Google Driveや他のクラウドストレージで似たような事故が起こらないとは限りません。
クラウドストレージには確かに多くのメリットがあります:
しかし、クラウドストレージだけに頼ることには次のようなリスクが存在します:
クラウドストレージを会社等で利用する場合、複数の利用者間でファイルの書き換えが可能なため実はバックアップに向きません。チーム作業では誰かが誤ってファイルを削除・上書きしてしまうリスクがあります。
クラウドストレージはサービス提供者のサーバーでデータ管理をするため、基本的なバックアップ作業は不要です。PCやスマートフォンが故障しても、データが消えてしまう危険性は低いでしょう。
しかし、特に重要なデータに関しては、別のクラウドストレージや物理メディアにコピーを保存しておくことをおすすめします。写真や動画、重要文書など、二度と取り戻せないデータは複数の場所に保存することが安心です。
会社でクラウドストレージを利用する場合、複数の利用者間でファイルの書き換えが可能なため、バックアップの観点からは不十分な面があります。重要な業務データについては、以下の対策が推奨されます:
データ保護の世界では「3-2-1ルール」と呼ばれる基本原則があります:
この原則に従うことで、単一障害点を排除し、様々な種類の障害やデータ消失リスクに対応できるようになります。
クラウドストレージの中にはファイル単位のバージョン管理(世代管理)に対応しているものがあります。ファイルに変更を加えると自動的にバージョン履歴が更新され、ファイルから直接過去バージョンの確認や復元が可能です。
Google DriveやDropboxなどでは、過去のバージョンに戻る機能がありますが、対応期間や世代数は各サービスで異なるため確認が必要です。
無料プランでは一定期間ログインしないとアカウントが停止または削除されることがあります。定期的にログインして、データが正常に保存されているか確認しましょう。重要なデータを保管するのであれば、有償プランへのアップグレードも検討しましょう。
インターネット上でデータ保管するクラウドストレージの場合、ユーザーIDやパスワードが漏えいすると、第三者が自由にデータを閲覧できてしまいます。2段階認証や暗号化といったセキュリティ対策が講じられているサービスを選びましょう。
3-2-1ルールを実践する上で、クラウドストレージだけでなく、追加のバックアップ手段が必要です。ここでは、特に重要なデータをバックアップするために役立つ製品を紹介します。
クラウドストレージとは異なり、バックアップに特化した専用のサービスがあります。日本国内で人気の高いサービスを紹介します。
国内会員数90万人以上、導入企業7,000社以上を誇る、日本で最も普及しているクラウドバックアップサービスです。ITreview Grid Awardのクラウドバックアップ部門で16期連続「Leader」を獲得しています。
主な特徴
NTT東日本が提供するオンラインストレージサービスで、バックアップ機能も備えています。フレッツ光の契約者向けに提供されており、国内企業に広く利用されています。
主な特徴
Microsoft 365(旧Office 365)のデータをバックアップするサービスです。AOSBOXやベリタスなど多くのベンダーが提供しており、企業のOffice文書保護に役立ちます。
主な特徴
Network Attached Storage(NAS)は、ネットワーク経由でアクセスできるストレージデバイスで、手元でのデータバックアップに適しています。日本国内で人気の高いNAS製品をご紹介します。
台湾に本社を置くSynologyは、使いやすいインターフェースと充実した機能で人気のNASメーカーです。近年急速にユーザー数を伸ばしています。
主な特徴
特に初心者向けの日本語ガイドが充実しており、NAS初心者でも安心して利用できます。
同じく台湾に本社を置くQNAPは、拡張性の高さと多機能性が特徴のNASメーカーです。企業向けの高性能モデルからホームユーザー向けの製品まで幅広くラインナップしています。
主な特徴
QNAPは機能の先進性や拡張性を重視したい方に適しており、IT知識がある程度ある方に向いています。
なお、QNAPに関しては、弊社インターステラ株式会社でも取り扱っております。導入にあたってのご相談も承っておりますので、問い合わせフォームからご連絡ください。
クラウドストレージは便利で多くのメリットがありますが、単独のバックアップ先として完璧ではありません。特に重要なデータについては、以下の方針が理想的です:
クラウドストレージはバックアップの「一部」として位置づけ、重要度に応じて複数の保存場所を確保することで、データ消失のリスクを最小限に抑えることができます。
最後に、どのバックアップ方法を選ぶにしても、定期的なテストと検証が大切です。実際にデータを復元できるか確認することで、いざというときに慌てることなく対応できるでしょう。